3月の農作業(畑仕事)と自然暦について、お伝えいたします。
日差しに温かみを感じられる日が多くなってくる3月は、春夏野菜の種をまく時期になります。
しかしながら、霜や寒の戻りで 発芽した野菜が傷んだり、溶けてしまうことがありますね。
江戸時代の農家さんは、植物の開花や落葉、鳥のさえずりなど、季節ごとの生き物の姿や活動で、農作業に適した時期を知る目安にしていました。
そこから生まれた自然暦や口伝などは、現代の私たちも十分活用できるものがありますので、ご紹介いたします。
3月の農作業(畑仕事)と自然暦|伝承農法から学ぶ春の農作業
3月の自然暦(旧暦2月_如月)
日本列島は南北に長いので、3月から種をまくことが出来る地域もあれば、寒くてまだ種まきには適さない所もあります。
江戸時代の農家さんは、この時期 植物の開花や動物の活動で、畑仕事の適期を知る目安にしていました。
3月 野菜の種まき
コブシの花が咲くと畑豆を蒔かねばならぬ
コブシの花が咲いたら、大豆をまきましょう※
引用 佐渡の諺「農業および園芸」加藤孝太郎、田渕浩康著
こぶしは、「種まき桜」「田打ち桜」とも呼ばれている花で、昔から農事の目安にされていたと言われています。
里芋の植え付け(1)
菜種の花盛りを目当てに里芋を植える。
咲く菜の花が咲いたら、里芋を植えましょう ※
引用 日本農書全集 第38巻「東郡田畠耕方并草木目当書上」
※ 筆者追記
サトイモの原産地はインド東部からインドシナ半島あたりで、低温に弱い野菜のため、まだ寒さが残る時期に植え付けると傷んでしまいます。
そこで、暖かくなってから咲く菜の花の開花を、里芋の植え付け時期の指標としていました。
里芋の植え付け(2)
桃の花が開き、にわとこの芽が立つ頃、里芋を植える。
桃の花が咲いて、接骨木(にわとこ)の芽が出始めたら、里芋を植えましょう ※
引用 日本農書全集 第38巻「東郡田畠耕方并草木目当書上」
※ 筆者追記
桃の花が開花する3月下旬~4月、接骨木(にわとこ)の芽が出始める3月~4月を目安に、里芋を植えましょうという自然暦もあります。
ナス科・ウリ科野菜の種まき
※ 画像は小彼岸桜です
彼岸桜の開花を見て、茄子の種をまく。
彼岸桜が散る頃、瓜、胡瓜、西瓜、胡南瓜の種をまく。彼岸桜が開花したら、茄子の種をまきましょう。
彼岸桜が散る頃に、ウリ、キュウリ、スイカ、カボチャの種をまきましょう ※引用 日本農書全集 第38巻「東郡田畠耕方并草木目当書上」
※ 筆者追記
上記の桜はソメイヨシノではなく、「彼岸桜」を指標にしているようです。
なぜなら、ソメイヨシノは明治時代になってから普及した桜であるからです。
彼岸桜の開花は、その名のとおり、春のお彼岸(3月20日)の頃に咲き始め、下旬に見頃を迎えます。
この時期が、ナス・トマト・ピーマン・シシトウ・パプリカ等、ナス科野菜の種をまく適期です。
なお、彼岸桜が散る頃に、ウリ科野菜の種をまくのは、ナス科に比べて育苗期間が短いため、種まきの時期が少し遅くなっています。
先人は、当時からナス科とウリ科の栽培期間の違いまで、熟知していたことがうかがえます。
接ぎ木の季節
二月の社日が接木の真旬
3月の社日(3月15日頃)が、接ぎ木の適期です ※
引用 川口孫治郎著「自然暦 」紀伊西牟礼郡萬呂村付近の口伝
※ 筆者追記
和歌山県西牟婁郡の口伝です。
社日(しゃにち)とは、雑節の一つで、生まれた土地の守護神を祀る日のことで、春分・秋分の日に最も近い戊の日(つちのえ)が社日になります。
ここでいう二月を、旧暦2月と考えますと、新暦の3月の春分の戊の日、すなわち3月15日頃が、接ぎ木の適期という解釈になるかと思います。
まとめ
3月の農作業(畑仕事)と自然暦について、お伝えいたしました。
江戸時代の農家さんは、季節の移り変わりに敏感で、植物の開花や落葉、鳥のさえずりなどの生き物の姿や活動で、農作業の適期を知る目安にしていました。
そこから生まれた自然暦や口伝などは、現代の私たちも十分活用できるものがありますので、ご参考いただけましたら幸いです。
『参考文献』
川口孫治郎著「自然歴」(八坂書房)